網膜の病気
網膜の病気
加齢黄斑変性とは目の中心部である黄斑部に障害が生じ、視力の低下や、形や色の見え方が悪くなる病気です。欧米では成人の失明原因の第一位であり、決して珍しくない病気です。日本でも高齢化と、生活の欧米化により近年著しく増加しています。
病名に「加齢」という言葉がつくことからも年齢が高くなると発症しやすくなります。特に黄斑や網膜色素上皮細胞などの老化現象がおもな原因と考えられています。
眼の中にあるVEGF(血管内皮増殖因子)という物質が新生血管を成長させたり、血液の成分を漏れやすくします。このVEGF のはたらきを抑えるために眼内に薬剤を注射し、脈絡膜新生血管の成長や血液の成分の漏れを抑えます。
抗VEGF療法は病気を治す治療ではなく、進行を抑制する加療のため、病状によっては2~3ヶ月おきに複数回の注射が必要となることがあります。
光に反応する薬剤を体内に注射し、その薬剤が新生血管に到達したときにレーザーを病変部に照射する治療法です。レーザーにより薬剤が活性化され新生血管を閉塞します。このレーザーは新生血管以外の組織にはほとんど影響しません。治療後は3ヶ月ごとに検査をおこない、その結果により必要に応じて再度治療を実施するという、継続的におこなう治療法です。
日本人に多い脈絡膜肥厚型の加齢黄斑変性ではPDT治療を併用することでVEGF阻害薬の投与回数を減らせることが近年明らかとなってきました。
新生血管をレーザー光で焼き固める治療法です。正常な周囲の組織にもダメージを与えてしまいますので、新生血管が中心窩より外にある場合にのみ実施されます。
糖尿病網膜症は、糖尿病の三大合併症の一つで、腎症、神経症とならんであげられる病気です。働き盛りの年代をおそう糖尿病網膜症は中途失明が多く、大変厄介です。罹病期間が長いほど発症率も高く、血糖コントロール不良状態が長期にわたると多くの場合、網膜をはじめ眼組織にさまざまな障害を起こします。糖尿病網膜症は、糖尿病になってから数年から10年以上経過して発症するといわれていますが、患者様の中にはかなり進行するまで自覚症状がない場合があり、まだ見えるから大丈夫という自己判断は危険です。糖尿病と診断された方は、目の症状がなくても定期的に眼底検査を受けるようにしてください。
糖尿病網膜症で視覚障害者になる人は、年間3,000人にのぼるといわれています。日本国内で、失明を含めた視覚障害の原因として3番目に多いのは、糖尿病網膜症です。生まれたときや小さいときに失明してしまった人は、視覚以外の情報を活用して生活する方法を身につけています。しかし、糖尿病網膜症のように人生の途中で失明してしまう中途失明は、肉体的にも、精神的にも状況を受け入れることが難しく、日常生活の質が極端に損なわれることになります
1988年 | 2001~2004年 | 2007~2010年 | 2015~2016年 | |
---|---|---|---|---|
1位 | 糖尿病網膜症 18.3% | 緑内障 20.7% | 緑内障 21.0% | 緑内障 28.6% |
2位 | 白内障 15.6% | 糖尿病網膜症 19.0% | 糖尿病網膜症 15.6% | 網膜色素変症 14.0% |
3位 | 緑内障 14.5% | 網膜色素変症 13.7% | 網膜色素変症 12.0% | 糖尿病網膜症 12.8% |
4位 | 網膜色素変症 14.5% | 黄斑変性症 9.1% | 黄斑変性症 9.5% | 黄斑変性症 8.0% |
5位 | 高度近視 10.7% | 高度近視 7.8% | 脈絡膜萎縮 8.4% | 脈絡膜萎縮 4.9% |
6位 | 黄斑変性症 5.0% | 白内障 3.2% | 視神経萎縮 5.4% |
1988年 | |
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1位 | 糖尿病網膜症 18.3% |
2位 | 白内障 15.6% |
3位 | 緑内障 14.5% |
4位 | 網膜色素変症 14.5% |
5位 | 高度近視 10.7% |
6位 | 黄斑変性症 5.0% |
2001~2004年 | |
1位 | 緑内障 20.7% |
2位 | 糖尿病網膜症 19.0% |
3位 | 網膜色素変症 13.7% |
4位 | 黄斑変性症 9.1% |
5位 | 高度近視 7.8% |
6位 | 白内障 3.2% |
2007~2010年 | |
1位 | 緑内障 21.0% |
2位 | 糖尿病網膜症 15.6% |
3位 | 網膜色素変症 12.0% |
4位 | 黄斑変性症 9.5% |
5位 | 脈絡膜萎縮 8.4% |
6位 | 視神経萎縮 5.4% |
2015~2016年 | |
1位 | 緑内障 28.6% |
2位 | 網膜色素変症 14.0% |
3位 | 糖尿病網膜症 12.8% |
4位 | 黄斑変性症 8.0% |
5位 | 脈絡膜萎縮 4.9% |
6位 |
単純網膜症では、血糖コントロールによって、眼底出血が改善することもあります。また、他の治療の効果を十分なものにするためにも、血糖コントロールが不可欠です。
高血圧・高コレステロールも網膜症を悪化させるので、それらを併発している人は一緒に治療しましょう。
【マンガで見る糖尿病網膜症】
https://mds.terumo.co.jp/about/pdf/guidebook09.pdf
レーザー光凝固術は、網膜にレーザーを照射して、新生血管の発生を防ぐ方法です。また、出血や白斑も治療できます。この治療で視力が回復するわけではありませんが、網膜症の進行を阻止することができています。
新生血管が破れて硝子体に出血を起こす硝子体出血や、網 膜が眼底から剥がれる網膜剥離が起きた場合には、硝子体手術が必要になります。
糖尿病網膜症では毛細血管からの漏れが生じて出血や浮腫を起こす単純網膜症、血管が閉塞してくる前増殖期、血流不足のために新たに形成される新生血管が悪さをする増殖期と徐々に進行してきます。この病気の進行と共にVEGF(血管内皮増殖因子)が増え悪さをしています。VEGF阻害薬はこれらの病態を防ぐことがわかってきました。現在は黄斑浮腫という血管透過性異常や血管新生緑内障という新生血管を原因とする緑内障に対して保険適用で使用されています。
網膜静脈閉塞症は、文字通り、網膜の静脈(血管)が詰まる病気です。 網膜の静脈が詰まると静脈の圧力が上がり、網膜がむくんだり出血したりしてものが見えにくくなる病気です。閉塞部位により「網膜静脈分枝閉塞症」、「網膜中心静脈閉塞症」に分類されます。一般的にこの病気は、中高年の方に起きやすく、高血圧や動脈硬化が関係すると言われています。
抗凝固剤、循環改善薬の内服や、強い斑浮腫に対しては抗V E G F薬硝子体注射を行うことがあります。網膜循環障害による無灌流領域には、合併症予防のためにレーザー治療(網膜光凝固術)を行います。また、硝子体出血や網膜剥離などの合併症を認めた場合は硝子体手術が必要になります。
飛蚊症とは、目の前を黒い点や虫のような小さなもの、糸くずや薄い雲のような「浮遊物」が飛んで動いて見えるような状態を言います。眼の中の硝子体には、透明なゼリー状の水分が99%以上詰まっていますが、一部線維が含まれています。この線維は加齢に伴って、水分とは分離し、塊となって眼球内を浮遊することがあります。これが飛蚊症の正体です。それ自体は病気ではありません。完全に消えることはありませんが、慣れてくるとほとんど気にならなくなります。
飛蚊症自体は病気ではありません。別の病気の合併症状として異常を知らせてくれるサインです。飛蚊症が現れる主な病気は次になります。
網膜裂孔とは、網膜に穴ができる病気です。穴の部分からの網膜色素上皮細胞や硝子体出血などが飛蚊症の原因となります。
網膜裂孔が悪化して網膜剥離に進むこともあるので、定期的に検査を受け、経過を見守る必要があります。網膜剥離に進行する場合、ほとんどは3ヶ月以内に起こります。
網膜剥離の治療は強膜バックリング法か硝子体手術により治療します。一般的に黄斑部が剥離する前に裂孔周りの剥離を直してしまい、黄斑部に後遺症を残さないようにします。このためにはできるだけ早期手術することが肝心です。ただ、若年者では進行が遅いため症例によっては時間的に都合の良い時期に合わせて手術をすることもあります。
網膜の血管が破れ出血が硝子体中におよぶと、硝子体出血といいます。硝子体出血は、少量であれば、硝子体の濁りとして存在するため飛蚊症の原因になります。
しかし、網膜の血管の病気によっておこる硝子体出血は通常多量であり、光線は出血にさえぎられて網膜に達しなくなり、ひどく視力が低下します。つまり可能性はあるのですが、硝子体出血が飛蚊症の原因になる場合は少ないです。
外傷以外で急に起こる硝子体出血の原因は 網膜裂孔、網膜新生血管(糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症など)、加齢黄斑変性、網膜動脈瘤破裂などがあります。超音波で出血で見えなくなった眼内を調べます。硝子体手術で出血はきれいに除去できます。黄斑部に異常をきたしていない状態で手術できれば良い視力が得られます。
ぶどう膜は虹彩(こうさい)・毛様体(もうようたい)・脈絡膜(みゃくらくまく)という3つの組織の総称で、これらに炎症がおこるとぶどう膜炎といいます。このうち毛様体と脈絡膜の炎症がおこりますと炎症性物質や白血球が硝子体中におしだされ、硝子体の濁りをおこします。
この病気のおもな症状は目のかすみ、視力低下などですが、飛蚊症で病気にはじめて気づく場合もあります。またぶどう膜炎が長引き重症になると、硝子体にも変化がおこり膜様の混濁ができ、黒い雲のような飛蚊症を自覚するようになります。
原因は感染によるもの、全身性の膠原病や自己免疫疾患によるもの、原因不明のものがあります。原因に応じた治療とともに眼局所での炎症を沈静化するために目薬や眼注射、内服、点滴治療を行っていきます。
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